テディベアは裏切らない
作業のきりがよかったのか、壮馬くんがベアをテーブルに置いた。中が収納になっていて、ふたを開くとトラバサミのように広がる裁縫箱に、寄りかからせて座らせる。そして彼の真っ黒い瞳が、昨日よりも爛と、下から私を見据えた。

「なんで、そう思うんだ。それを作ったのは俺だぞ」

「だからこそです」

「だからこそ? それがどんなものかは、俺がよく知ってる。いや、俺しか知らない。その俺が言うんだ。未完成品ってな」

「ならどうして……」

それが、私に似ているなんて、お母さんに言われるのか。

アナタは、このテディベアに、どんな意味を込めたのか。

「――本当のこと、言ってくださいよ」

まるで、哀願するような声になって、自分でも驚きました。このテディベアが自分に似ていることに、私のどこかがひどく、たじろいでいる。

「これが、どうして私に似てるなんて言われるんですか……!」

猫に追いつめられたネズミは、猫に噛みつくらしい。窮鼠猫を噛むということわざ。だけれどそれは、勇気ではなくて、ただ、わけがわからなくなっているだけ。逃げなければならないのに逃げられなくて、けれどじってしていられなくて結局、なにかしら行動しなければ耐えられなくて。

だから、噛みついた。

私が今、壮馬くんに怒鳴ったように。

彼は、顔だけじゃなく、体ごと私へ振り返った。冷たく黒い瞳が少し、寂しさを浮かべる。
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