テディベアは裏切らない
壮馬くんはこの光景を私に見せて、なにを期待していたんだろう。私が、なにを感じると思っていたんだろう。少なくとも、彼に有利に働く情動は、まったくない。

ただ、無駄なことに心を割いて、いずれ踏み外してしまう平均台を渡ろうとしている友達を見せつけられただけ。何度も注意したのに約束を守らない子供を見つけた母親、のような気分だった。

話が一段落ついたのか、レナちゃんとほたるちゃんが高村まひるに別れを告げた。たぶん、今日話されていたなにかしらの計画は、明日実行に移されるのだろう。心構えができてしまったから、どんな泣き落とし作戦がきても、耐えられる。壮馬くんは、本当に無駄なことをしたなと思った。

教室を出てきた二人に気づかれないように、壮馬くんと二人、階段の角に隠れる。二人は私達とは反対側へ出たから、こっちへは来ないだろう。

ただ、高村まひると別れた時には波長を合わせていた二人が、今はどこか険悪なムードだった。レナちゃんの一歩先にいたほたるちゃんが、廊下で、棒のように立っている。レナちゃんはその背中を見つめて、私と壮馬くんは陰に隠れて二人の背中を見つめていた。

そして、

「レナ、あたしさ、やっぱ我慢できないわ。先に謝っとく。ごめん」

ぶっきらぼうに言った直後、体ごと振り返ったほたるちゃんは、強烈な平手打ちをレナちゃんに食らわせた。

ハッと驚いたのは私だけで、とても、静かな数秒だった。
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