テディベアは裏切らない
呆気なく倒れてしまうレナちゃんは、けれど、殴られるをずっと覚悟していたみたいになにも言わない。恨みがましさも見られない。なにかを受け入れるように、殴られた頬を押さえて、じっと俯いていた。

「昨日のあれ……なんだったんだよ」

沈黙に負けてほたるちゃんが問うまで、私は、状況が飲み込めなかった。

そうだ。ほたるちゃんは、レナちゃんが自傷を続けていたことを、怒っているんだ。

「――めん」

「あ?」

「ごめん」

「っ、ごめんでっ、すむならっ……!」

奥歯を噛み締めて、ほたるちゃんも俯いた。歯と歯の隙間から、言葉が押し出される。

「なんでさ……、また、始めたんだよ……?」

「……話したって、」

「わかんないかもしんないけど、言えよ。あたしら、友達だろ。ずっと友達だったろ。これからも友達でいる限り、あたしゃアンタをほっとかないんだからね」

ほんの少し、レナちゃんが肩を震わせたようで、

「――ごめん」

その瞬間のほたるちゃんは、髪が逆立ったように見えた。

廊下に、ぅわんぅわんとほたるちゃんの声が響く。

「っっっ! アンタまで、小百合みたいなこと言うのかよ……っ!?」

「そうじゃないの。そうじゃないのほたる。今のは、」

「なんだよ!」

「ありがとうって意味の、ごめんなの……」

「……? あ?」

意味がわからなかったのは、私もだった。

頬を押さえたまま立ち上がったレナちゃんは、ポケットを探った。出てくるのはわかってる。彼女が持ち歩いている狂気、そして凶器。何度もレナちゃんの肌を舐めた、あのカッターだ。
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