テディベアは裏切らない
最初に、自嘲っぽい失笑が聞こえた。

「ちょっと恥ずかしい話なんだけ私さ……ちょっと、気持ちよかったのよね」

「リスカがかよ」

「違う。ほたるに心配されるのが」

「だから?」

「そ。だから」

――リストカットを、繰り返してたの? 私には、理解、できなかった。

人間のすべてを彼が知っているはずはないのに、つい、横の壮馬くんを見上げていた。彼は、レナちゃんとほたるちゃんには目もくれず、小脇にテディベアを抱えたまま、壁に寄りかかっていた。目は閉じていて、なにを考えているかわからない。けれど、耳だけは確実に、彼女達の話を一から百まで捕まえていた。

レナちゃんが続ける。

「私を傷つけるだけじゃなく、ほたるまで傷つける……。だから私、いったんはリスカやめたわ。けど、そしたら私が今まで逃げてたいろんなものが、いっせいに圧し掛かってきたの。そういうの、つらくってさ。でも、ほたるがいてくれたら乗り切れそうな気がした」

「レナ……」

「でも、そのつらいことっていうのは、だれだって感じてることで、本当なら、つらいって感じることもないかもしれない。そういうことばっかりだったのよ」

「それで、アンタ」

「うん、切っちゃった。するとさ、なにバカなことやってるんだろうって思ってね。またほたるが悲しむぞ、傷つけるぞ、なにやってるんだ一ノ瀬レナって、過去の私が叱ってくれるわけ。そして、こうも思えるの。私はそれだけ、ほたるはきっと心配してもらえてる。それが、気持ちよかったのよ」
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