空の姫と海の王子
「お前………え?」
違う
俺はあの女を知らない
だけど、知ってる
あの瞳は知ってる
何かは知らないけど
よく分からないけど
記憶の片隅に小さく存在している
だけど、その記憶には
手を伸ばしても届かなくて
もどかしい気持ちが募っていくばかりだ
「……今まで、ありがとう」
空から降ってきた小さな声が
何故か強く心に響いた
陸は何もせずに
ただ、少女を見上げていた
「陸はいつも春達を守ってくれて、嬉しかった」
春は、小さく笑った
その笑顔を見た途端
陸は口を開いた
「お前、何で楽しくもないのに笑ってんの?」
「……楽しくなきゃ笑っちゃ駄目なの?」
「笑顔ってのは、楽しくて嬉しくてどうしようもない時に自然に溢れるもんだろ」
陸の言葉に春は表情を消した
だけどそれは一瞬で
春はまた笑顔を見せた
楽しそうな、無邪気な笑顔
しかし、陸は無表情のままだった
「お前、辛いのか?」
「……やっぱり陸は優しいね。ありがとう、話せてよかった」
話せてよかった
そう言った一瞬だけ
春が本当に笑った気がした
その笑顔を最後に
桜の花びらと共に春は消えた
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