学び人夏週間
学級崩壊なんて、本当にそんなことがあるんだ……。
その言葉自体は聞くことがある。
しかし、知らない遠くのどこか……私とは関係ない場所で起こっているものであって、こうして身近な人から話を聞いたのは初めてだった。
南先生はまるで笑い話のように話してくれたが、それがどんなに大変な事態であるか、まだ学生の私にもわかる。
「私は生徒に自分の期待や価値観を押し付けるばかりで、生徒の意思や気持ちを跳ねつけていたんですね」
「生徒の意思や気持ち……ですか」
みなみ塾を自分のものさしで見ていた自分を思い出し、南先生の言葉がぐさりと刺さる。
私は自分の「こうあるべき」論に当てはまらないからといって、松野や重森をかわいくない嫌なやつだと思ってしまった。
「はい。教師の仕事は生徒に教えることだけではありません。生徒を育むことです」
「育む……」
勉強を“教える”だけでなく、生徒自身の自主性や自立心を“育む”こと。
この合宿で私たち講師に求められているのは、“教える”能力だけでなく“見守る”ための忍耐力と“導く”ためのリーダーシップ。
「そう。時には押し付けることも必要ですが、生徒の意思もちゃんと吸収しないと、教師としても成長できないんです。生徒も教師も、互いに学び人なんです」
「学び人……」
この合宿で、教えることだけが教師の仕事ではないことを学んだ。
私もきっと、ここで学んでいる。
「そう。学び人。佐々木先生はさっき勉強になるとおっしゃいましたね」
「ああ、はい」
「ちゃんと学んでいらっしゃる。きっといい教師になりますよ」
南先生の言葉に胸を打たれ、私は少し泣きそうになってしまった。
彼の言葉はスッと胸に入ってくる。
若いだけの私や俊輔には決して醸し出すことのできない雰囲気と魅力のある穏やかな声、そして威圧感のない優しい言葉で。
「あ、この話はみんなには秘密にしておいてくださいね。ここのメンバーには誰にも話してないんです」
人差し指を口元に立てて微笑む南先生。
どうしてこんな話、私だけにしてくれたんだろう……。
私は笑顔で大きく頷いた。
「南先生、明日の肝試しのことなんですけど……」
小谷先生の呼びかけに、南先生がはいはいとゆっくり立ち上がり、行ってしまった。
紙コップに残ったお茶を飲み干すと、いつもより少し苦く感じた。