学び人夏週間
「私が勤めていたのはレベルの高い進学校でした。受験に向けて、一年生の頃から厳しく指導をするのが学校の方針でね。私はその中でも突出して厳しい教師だったんです」
「南先生がですか?」
優しい口調と柔らかい笑顔でサラッとそう言われても、にわかには信じ難い。
厳しい教師だった面影などどこにもない。
「勉学に励むことのみを生徒に求めていた私は、生徒に色々なことを禁止していました」
「色々なこと?」
この合宿は、あまり禁止事項がない。
勉強時間は短いし、夜は宿舎から出なければ遊んでいてもいい。
これほど自由度の高い塾の塾長が、一体なにを禁止していたのだろう。
「カラオケとか、ゲーセンとか、ファストフードとか。あと、恋愛も」
「恋愛……ですか」
私もお茶を一口すすり、南先生の話にしっかりと耳を傾ける。
先生は紙コップをテーブルに置いて語り始めた。
自分が学生時代に勉強ばかりしていたのもあって、当時の私はよりハイレベルな大学に進学することこそがいい人生を送るための条件だと信じていました。
片想いは不可抗力ですが、交際となると心が浮わつきますから、勉強、しいては受験の妨げでしかないと、本気で思い込んでいました。
ですから、それを禁じることが彼らの輝かしい未来のためになると。
恋がよいモチベーションになることもあるのだと、今ならわかっているのですがね。
ある日、私は自分のクラスの男女が交際しているのを知りました。
彼らは学年でもトップレベルの成績を誇っていましたし、クラスではリーダー格でした。
互いに成績を競っているうちに惹かれ合って、そういう関係になったとのことです。
私はこのままでは彼らがダメになってしまうと思い、その二人をきつく叱って別れるように言ったんです。
口だけだったとは思いますが、彼らはしぶしぶ了承しました。
それ以来、二人はすっかりやる気をなくしましてね。
二人とも私の授業に出なくなりました。
当然、成績もがた落ちです。
学校側からも生徒からも責められましたよ。
他の生徒も私が二人にしたことを知り、徐々に授業に出なくなりました。
そのあたりで自分のしたことの間違いに気づいたのですが、もう手遅れ。
生徒は私の言うことには、全く耳を傾けなくなっていました。
かなり堪えました。
私の信念は間違っていた。
正そうにも、どうしていいかわからない。
このままでは生徒を不幸にしてしまう。
私はそう考え至って、教師を辞めたんです。