学び人夏週間

俊輔は最上階の3階から、私は1階から、朝礼に松野が来ていないことを確認してから捜索を開始。

ひと部屋ひと部屋、掃除道具を収めている小さなスペースの扉も全部開けたし、男子トイレにもズカズカと入った。

しかし誰もいない。

扉を開くたび、その音が静かな空間に響く。

誰もいない物だけの空間は、独特の音の響き方をする。

松野がいないことを確認するごとに、虚しさと不安が増していく。

1階の事務所で仕事をしていた合宿場のスタッフにも話を聞いてみたが、誰も心当たりはないという。

1階にはいないことを確認し、2階へ。

ほぼ同じタイミングで俊輔も3階から下りてきた。

どうやら俊輔の方も、今のことろ成果はないようだ。

二人で2階にある全ての扉を開けみたが、やはり松野はいなかった。

「いないな、松野」

「……うん」

本当に、どこに行っちゃったの?

「この天気で、外に出たのか……」

俊輔の視線につられ、私も窓の外を見る。

横殴りの雨。

しなる木々。

まさに台風上陸中。

松野は宿泊のための大荷物を持っている。

強風に煽られて転倒して、ケガをしたり事故に遭ったりしていないだろうか。

想像すると泣きそうになり、慌てて俊輔から顔を逸らした。

ここで泣けば、俊輔は私を抱き締めてくれるだろう。

甘やかしてくれるだろう。

彼にすがれば、幸せを感じて不安をある程度中和できる。

だけど。

さっき、小谷先生は冷静にテキパキ行動していた。

彼女に負けたくない。

ここで泣いちゃうような、弱い人間だと思われたくない。

「探すしかないよ」

私は歯をくいしばり、走って階段を下りた。



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