月夜にヒトリゴト

海のデート

「今そっちに向かってる」
そんなメールが届いたのは、2月14日夕方だった。
その日は、地方都市で、研修があった圭亮。
自分の住む町を通り越して、私の住む街を目指してるという。
新幹線と特急を乗り継ぎ、3時間ほどの道のりを、かけてきてくれる。
私は心が躍り、子ども達に夕飯の支度をし、旦那に託し、最寄り駅まで迎えに行った。

時々、ママ友と深夜の岩盤浴や映画に出かけていた。
「急に誘われたから」その一言に、嫌味は言われても辛くはなかった。

圭亮は「来ちゃった」とハニカミながら、車に乗り込んだ。
「ホントだよ」実は、心底呆れていた。

少なくとも、もう、最終便で地元に引き返すこともできない。
圭亮は、泊まりを覚悟で、私に会いにきてくれた。
きっと、奥さんになんて連絡しようと頭を悩ませていただろう。
それでも、満面の笑みだった。

地元で有名なラーメン屋に圭亮を案内し、遅い夕飯を食べてもらった。
そのまま、行くあてもなく、海辺をドライブ。

二人きりで、こんなに長く話すのは、初めてだった。
運転の苦手な私は、かなり緊張していた。

有名なタワーの足元にある、浜辺に着いた。

2月14日。
そう、世間はバレンタインデー。
海辺は、若いカップルで溢れていた。
なぜなら、そのタワーのイルミネーションが、ハートマークだったのだ。
何も知らずに、たまたまそこに訪れた私は、思わぬプレゼントに、嬉しくて叫びそうだった。

まだ、寒い冬の海だった。
人がまばらになるまで、ずっとずっと歩いた。
“海のデート”は初めてだった。
こんなにロマンティックなものだとは知らなかった。

冷たい風、真冬の寒さに、手足をさすってくれる圭亮。
さすがに、「あたたかいところに行こう」なんて互いにいえずに、時には腰掛け、時には歩き、ずっとずっと話し続けた。

二人でいることが不思議でならなかった。

そんな時、圭亮の奥さんから電話が来た。
研修とはいえ、急なお泊まりに、かなり怒ってる様子だった。
圭亮は、私に距離を置いて電話をしつつ、「ゴメン」と何度も繰り返していた。
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