月夜にヒトリゴト

オチテイク

初めて手をつないだのも、その日だった。
今時珍しいだろうが、本当に純情な初恋だった。

圭亮は、何度も何度も私の手を撫でながら、「この手に憧れていたんだよなあ」なんてつぶやく。
抱き寄せ、そっとキスをされた。
こんなにドキドキするキスは、初めてな気がする。
というか、キスってずっと何年もしてなかった気がする。
まるで、初めての体験のように、頬が赤くなるのが自分でも分かった。

圭亮も、恥ずかしそうに、また抱き寄せてくれた。
耳元で「好きだよ」と囁かれた。
たぶん、言葉にされたのは初めてだった。
何年も何十年もの思いが、一気にあふれ出た。
忘れていたはずの思いが、やっと言葉になった。
そんな感じだった。

私は、また照れくさくて、目をそらしてしまった。

圭亮に何度も何度も言われた言葉が「もっと顔を見せて」だ。
恥ずかしがり屋で、緊張しいな私は、じっと見つめられるのになれていなかった。
褒められるのも、全く経験がなかった。
だから「綺麗だ」といわれても「好きだ」といわれても「あいたかった」といわれても、照れくさくてたまらなかった。
私は明らかに“恋愛ベタ”な人間なんだと思う。

圭亮もまた、不器用であった。
互いに言葉を発するのが苦手だった。
それでも、一生懸命に愛を囁いてくれる圭亮に、段々、心を開いていった。

私は、わが身を振り返らず、とろけるような恋に落ちていった。
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