月夜にヒトリゴト

誕生日

圭亮は、奥さんに別れを告げるべく、決心を固めているようだった。

あまりに、先延ばしになっていく言葉に、もう別れた方がよいのかもと、何度も繰り返したのは私だった。
そのたびに、食い下がってきたのは圭亮。
段々、本気なんだと思えてきた。

そのくらい、圭亮は、変わっていたかもしれない。

間延びになっていく言葉を信じられない私に、圭亮は、奥さんに送るというメールを見せてくれた。
私とやり直したいという思いと、今後、子どものことも奥さんのことも、全力で支援していくということ。
わがままを許して欲しいという内容だった。

私は正直、そのメールを見て、奥さんに対する愛情が垣間見えて、ますます不安になった。
そして、意外と、同じように、私に対するメールも準備されてるんじゃないかと思われてならなかった。

不安になればなるほど、なんだか締め付けられる思い。
私は、いつの間にか、圭亮の心を束縛してしまっていたのかもしれない。

一緒にいるだけで幸せだった。
圭亮が大好きだった。
ただそれだけだったのに・・・

幸せを夢見てしまっていた。
多くを望んでしまっていた。
欲が出ていたのかもしれない。

私の誕生日。
よりによってそんな日を、圭亮は指定してきた。
最終的に、この日に奥さんに言い出せなかったら、もう断ち切ってもらってよいという。
覚悟は決めたんだろうと思った。

圭亮は、最後まで、子ども達に未練があるんだろうと思っていた。
だから、子どもを引き取れるのであれば、そうすればいいと・・・
ただそれだけ、言葉を継げた。
私に立ち入れるものではないと思ったから。

誕生日。
運命のその日。
圭亮は、奥さんに切り出せなかった。

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