月夜にヒトリゴト
写真
「一緒に写真を撮ろう。」
そう声をかけられ、写メにおさまったのは、同窓会の会場であった居酒屋の玄関先。
なんでも、事務所で働く事務員さんに、私の事を話したらしく、“初恋の人”を見て見たいといわれたらしい。

初めて撮った二人の写真。
後にも先にも、これが一回きりとなった。
もう二度と、そんな機会は訪れないと思うと、何であの写メを保存してなかったのだろうと、悔やまれるけど・・・
ちゃんと、忘れるためには、それも必要だったんだと思える。
やっとそれだけの時間がたった。
私にとっては、長い長い春だった。

同窓会から数日後、新年を迎える瞬間も、互いにメールを交わすほど、頻繁なやり取りがあった。
年末年始で、彼の家族は、実家のある四国に帰省していて、彼が自由だったことも、そういう空間を作り上げていった。
私も同じく、三人の子どもが一緒とはいえ、年末年始を実家で過ごしていたため、わりと自由が利いた。

今まで言葉を交わしてなかった分、たくさんの言葉がメールを彩った。
携帯って、本当に便利なものだと改めて感じた。
離れていても、互いをずっと感じられる・・・
そんな気がしてならなかった。
明らかに錯覚だというのに。
互いに家族が存在し、生きて行く場所はしっかりあって、逃げ場所なんてなかった。

目を見て話すことが苦手なこと。
電話が苦手なこと。
二人とも、メールでは雄弁なのに、肝心な会話は成り立たなかった。
それでも、共有する時間は、窮屈とは思わなかった。

まるで、今までの時間を取り戻すかのように、必死に言葉を交わし、互いの今を見つめ、過去をかたどっていった。

私は、疑うことなく、すべてを信じていた。
疑うなんて、これっぽっちも考えてなかった。
それは、幼馴染である“圭亮”だったからである。
幼い頃から知ってる、“圭亮”だったからである。
昨日今日であった間柄ではない、そんな信頼感から、一筋も疑うことをしなかった。

私は、恋をしてしまっていた。

< 4 / 44 >

この作品をシェア

pagetop