月夜にヒトリゴト

実家

実家から離れたい一心で、“早く結婚したい”と望んでいた私だった。
それなのに、実家に通っては、気晴らしをするようになっていた。

実家は自営で、家計も苦しく、幼い頃から苦労していた私。
学生時代も、バイトをしてまで、家計を支えていた。
そうでないとやっていけなかった。

進学校には進んだものの、金銭面から、就職となり、お給料も全額親に渡し、週末も喫茶店でバイトをしながら、家計を支えた。
そんな日々から、早く抜け出したかった。

生活費にさえ、苦しむ日々から開放されたかった。
普通の家庭でよかった。
ささやかで良かった。
笑顔が溢れる家庭が欲しかっただけだった。

それなのに、私は、笑顔からは程遠い暮らしをしていた。

実家に行くたびに、“苦しい生活ぶり”を目の当たりにすることになった。
目がそらせなかった。

電気代が払えなくて滞納していたり、水道代が嵩んでいて、水も出ないという状態だった。
電話だって長いこと止まっている。
汲み取り式のトイレも、支払いできるお金がなかった。

そんな生活が今時あるかって思うだろうけど、世の中には、そうやって暮らしている人がたくさんいる。
恥ずかしながら、私は、そういう家で生きてきた。

最初は小さなお金だった。
集金に来てもらって、“払えない”のは申し訳ない・・・
そんな気持ちからの“たて替え”のつもりだった。
水道代、電気代、公民館費、ちょっとしたお金が重なり、大きな負担へとなっていく。
それでも、返金して欲しいといえる状況でないのは、そこで生まれ育った私だから、よく分かっていた。
そんなこと、言えなかった。

親にも、旦那にも言えないことが、少しずつ増えていった。
私は、違う秘密を一人で抱えてしまうことになった。

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