Bitter&Sweet
「南!」
お昼休み、食堂へ行こうと
廊下を歩く私の腕を
後ろから本郷先生が強く掴んだ
「……………本郷先生」
本郷先生は
走って追いかけてきたのか
肩で息をしていた
「南……あの家でたって
本当なの…………?」
本当です。
そう言おうとした時
廊下の窓に雨粒がぶつかり
バラバラ…ってすごい音がした
窓に視線を移し
降りしきる雨を見つめると
「南は翠が好きなんだと」
私は本郷先生の言葉を遮り
「こんなところで
やめてください」
病院の廊下なんて
誰に聞かれるか
わからないのに
「じゃ、こっちへ」
私の背中にそっと手を添え
非常階段へ向かった。
「いつ?
いつ そんな話になった?」
非常階段の壁にもたれて
腕を組み本郷先生が訊く
「………2週間くらい前」
「それで君もう引っ越したの?」
「とりあえず
マンスリーマンションに」
「ケンカしたの?
ぼくのせいかな?
君を酔わせたから…」
「関係ないです」
口元に手を当て
本郷先生は考え込む
そんなに気になるなら
お兄ちゃんに
聞けばいいじゃない
一緒にいる意味がない。
そう言ったのはお兄ちゃんだし