Bitter&Sweet




もう お昼どころじゃない



廊下を とにかく早足で歩いた



恐怖感が身体中に
まとわりついて離れない




廊下の角を曲がった時


ドンッと人とぶつかって



「すみません」


頭を下げると


「姫?」


…………お兄ちゃん


「ああ、
なんだか久しぶりだね」


嬉しそうに前髪に手をやった
お兄ちゃんの顔を見たら




「………おに…お兄ちゃん」



ぶわわわわ~って
涙が溢れて



「…………姫?何かあった?」



私は首を横に振った


「でも、泣いてるよ」


「………だ、大丈夫…だから」



お兄ちゃんは何も言わず
私の肩を抱いて


カンファレンスルームに入れた




雨の音が響く 薄暗い部屋に
お兄ちゃんと二人きり



泣き顔を見られたくなくて


背を向けて


「大丈夫って言ったのに
お兄ちゃんに関係ないのに」



「姫はオレの……妹だし
関係ないってことはないだろう

それにナースが泣くなんて
患者を不安にさせる。
人目のつくところで
泣いてはいけないよ」




「……………」


言い返せることは何もない



うつむく私の耳に雨の音だけが
哀しく響いた




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