Bitter&Sweet
この子、わかってるんだ。
雅哉さんと私の間にあった事
「…ほら、楽くん
ちゃんとマスク付けて
早く元気になろう?」
マスクを付けようと
手を伸ばすと
楽くんの小さな手が
私の手首を掴み
「……また、パパと……
遊んで…くれ…る…
……ゴホッゴホッ……」
「楽くんっ!」
ヒュー、ヒュー
「…遊んで…くれ……たら
……ぼく…がんばる……」
「――――――――………」
答えられない
責任の取れない
安易な情は
何よりも罪深い
だけど
「うん。
じゃあ楽くんが治ったら
また3人でどこか行こう……」
楽くんは 苦しそうに歪めた顔を
ふわっと緩め笑い
自分で酸素マスクを付けた
病室を出ると
「松雪さんっ!」
雅哉さんが追いかけて来て
「すみません。楽が……」
私は首を横に振り
「いいえ。
あ、ご存知とは思いますが
先生のOKが出るまで
楽くん、病室から出ないように
お願いしますね」
「松雪さん」
「……はい」
「会いたかったです。
ずっと、ずっと」
ズキン
雅哉さんの真っ直ぐな視線に
胸が痛み始める
「皮肉ですよね。
あなたに会えるのは
楽が苦しんでる時だなんて」
それだけ言って
雅哉さんは病室に戻って行った