アオイハル
「それよりも、こんな人通りの無いところを彷徨いていたら、また痛い目に遭う。」



相変わらず鋭い目をして発せられた言葉だったけど、声色は幾分優しかった。



心配…してくれるの?



そう感じたら、冷えかけた心の奥に温かさを取り戻した。



だから、私は微笑みかけることができたんだと思う。



「どうしても、お礼を言いたくて…。」



料理上手な梨香に教わりながら作ったクッキーを差し出すと、紫宝院様は受け取ってくださった。



封を開けて1枚口にし、飲み込むと1枚、また1枚と、黙々と食べ続ける。



梨香に教わったんだから不味いってことは無いんだろうけど、何か言って欲しい。



結局、全部食べ終わるまで声をかけられなかった。



「あの、お口に合いました…?」



「あぁ、これはキミの手作り?」



「はい。」



緊張しながら答えると、紫宝院様は更に質問を重ねた。



「キミの名前、教えて貰っても良いかな?」



「聖愛です。

聖母マリアの“聖”に、愛と書きます。」



私が葛城の娘だと知ったら、嫌われるかもしれない…。



それが嫌で、名前だけを名乗った。



「それは、名前で呼んで良いってこと?」



紫宝院様の解釈に便乗して、頷く。



「じゃあ…聖愛ちゃん。

また手作りのお菓子が食べたい…って言ったら、図々しいかな?」



少し悪戯っぽく微笑みかけてくれたことが凄く嬉しくて、つい大きな声で答えてしまった。



「また来週、お持ちいたします!」





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