夢みる蝶は遊飛する
救急病院に搬送された母は、大量出血で血圧が下がり出血性ショックを起こしていた。
そのために輸血が行われた。
大量の輸血により、もはや母の身体を巡る血液は、母のものだとは言えなくなった。
それでも母の容体は思わしくなかった。
そして数時間後の夕方。
母は息を引き取った。
奇しくもその時刻は、父の亡くなった時間と十数分しか違わなかった。
母の最期の言葉は、ショック症状のためのうわごとだった。
『愛してる』
母はそう、何度も繰り返し呟いていた。
最期まで父を愛していたのだろう。
命の尽きるその瞬間まで貫いた愛は、きっと父だけに向けられたもの。