夢みる蝶は遊飛する


「・・・っ、いやあああっ!」



後ずさりしそうになるのを堪えて、母に駆け寄った。


「お母さん、おかあさんっ」


肩を揺するとその体がぐらりと揺れ、私の胸に頭を預けた。

血の気の無い、真っ青な顔と唇を見た瞬間、私は声にならない声で叫んだ。


「・・・―――っ!」



その時、わずかに母の瞳が開いた。

うっすらと開いたそれに私の姿を映し、母は小さく口を動かした。

まだ生きている。


こんなに狼狽しているのに、なぜか冷静に、正常に身体は動いた。

脱衣所のタオルを取って止血をする。

冷たい皮膚から滲む鮮やかな紅が、タオルの白を侵食していった。

その血液の色を見て、私は動脈からの出血であることを知った。

圧迫止血をしても、タオルはすぐに使い物にならなくなる。


このままでは、母は助からない。


「お母さん。置いていかないで・・・ひとりにしないで・・・っ」


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