旦那様は社長 *②巻*
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目の前に見えてきた、広大な有栖川家の所有地。
急激に鼓動が速くなるのを感じた。
だけど、不思議と“逃げたい”とは思わなかった。
それはきっと悠河のこの手の温もりと、今朝あたしに言ってくれた言葉のおかげ。
『新しい有栖川を作るぞ』
伝統が全てを解決してくれるわけじゃない。
伝統を守ることはとても大切だけれど、本当に守らなければならないものを見失ってしまっては意味がない。
時代は変わるのに……。
人も変わるのに……。
変わらないものなんて、この世に存在しないから。
あたしと悠河は、これから新しい未来を作りに行くんだ。
「できるかな?あたしたちに……」
あたしたちが作る今が、いずれ“過去”になって“伝統”に変わる。
「できるかじゃなくて、オレたちがやるんだよ」
「……そうだね」
今まであたしたちの行く先に立ちはだかっていた大きな壁。
ずっと探していたけれど見つからなかった出口。
やっと気付いたんだ。
その出口は、あたしたちが自分で作るんだって。