獣闘記
敏彦が立ち合いの場に選んだのは、小さな神社だった。

堅い石畳や砂利の地面が、柔道家には有利である。また、複数を相手にすることになっても、本堂裏の林に入れば大通りまでは逃げ切れる。
まさか6歳の子供に手出しはしないだろう。



そう計算して選んだ。

靴は脱いだ。石畳の上で革靴は滑る。
足の裏を傷める可能性はあるが、踏張りが効く。

コートと襟つきのシャツも脱いだ。

盛り上がった肩と胸の筋肉が、薄いTシャツの上からよくわかった。


南海は30代くらいの若い男を一人だけ残し、あとの三人には帰るように指示をした。


男たちの後ろ姿が見えなくなったところで、南海が敏彦と向き合った。


「怖いねぇ。」
南海が、笑いながら呟く。
笑顔に屈託がない。


敏彦は動かない。微動だにしない。



龍太はそんな父を息を殺してみていた。

< 15 / 22 >

この作品をシェア

pagetop