硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
何回なったのだろうか。
長く感じた。

しかし、心の焦りや不安はなかった。

電話をかけた時には、落ち着いた穏やかな気持ちで、呼び出し音を聞いていた。


『はい、七海です』

【あ…】

私は、電話の向こうの声に、心奪われる。

【やっぱり…】

幻想のように聞こえるようになった、あの、何とも言えない優しい声と同じ声に、私は、心を奪われた。

【やっぱり…この人と同じ声だ…でも、何で…】

私は、疑問にかられながらも、普通ならありえないと思う体験に、心身、浸っていた。


『もしもし?』

「あ、」

私は、慌てて口を開く。

「あの、花瀬日和です」

『花瀬日和さん?』

私は、普段からの習慣で律儀に名乗ったが、名前は言っていなかったことを思い出した。

「はい、あの…、さっき、私に声をかけた方ですよね?」

『あぁ!彼女!電話くれたんだー、有難う!』

「い、いいえ」

私は、その後の言葉が続かなくなる。

が、しかし、次の瞬間、立て板に水を流すように、私は、話だした。

「あの、まだ興味があるとかないとか、そういう段階まではいってません。なんせ、お話の意味がわからなくて。詳しく、…聞きたいです…」

私は、一気に言うと、黙りこくった。

『わかりました。次の日曜日は、お暇ですか?』

「はい」

『じゃあ、一週間後、お会いしましょう』

「はい」

『今日、私が声をかけた場所に来れますか?遠くはないですか?』

「はい、来れます。遠くないです」

『じゃあ、午後一時に其処で。近くに緑道があって椅子があるので、そちらに腰かけてでもいて下さい。立って待つのはきついですからね』

「あ、はい」

『じゃあ、来週日曜日に、会いましょう』

「はい、わかりました」

『じゃあ、またね』

「はい。失礼します」

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