硝子の靴 ~夜帝の紅い薔薇~少女A~
部屋に入り、窓を開ける。

換気のためだ。

外の景色を見るのが好きだし、風にあたるのも好きだというのもあるが。

帰宅した途端、どっと疲れがきたのを感じて、私は、ベッドに飛び乗った。

そして、仰向けに寝転ぶ。

私は、さっきの出来事や自分のとった行動を思い出していた。

声をかけてきた、七海龍星という男性。

その人の、私の肩に触れた、手の感触。

差し出した名刺。

そして、

自分が一番驚いている、自分のとった行動。


【私は、何で電話をしたのだろう…】

私は、考えていた。

私は、どういう人間なのかと。

人見知りで、特に、男の人に自分から話かけるなんてした事がない。

ましてや、電話をかけるなんて、考えられない。

でも、今日私は、電話をかけた。
今日、初めて会ったという、知らない男性に。

【私って…どんな性格なの?…】


私はこれまで、両親の言うとおりに生きてきて、それを評価し喜ぶ両親の顔を見て、自分も嬉しかった。

そして、ある日、両親から、桐生隼人の許嫁の話を聞かされた時、初めて、自分の感情が沸き起こった。

嫌だと、思った。

私の人生は、私の両親が決める。
今までも、これからも。
私の事を想って。


このまま進めば、私は、事前に両親が決めた事を聞かされて、わかっている人生を送る。
予想外の事が起きた時も。
結婚相手も。

これが、私の人生。

【これが、私の人生?…】


私は、思い出していた。

七海龍星の言葉を。

『しゃべってくんないとさ、君が何を思っているのかわかんないし』

【私の思っていること…】


私は、考えていた。

【私は、どうしたい?
私は、どんな人間?
私は、どんな人生を送るの?
これから、どんな人生が私に訪れるの?】


わからない中で、ひとつだけ。

【未来は、わからないはず】


そして、私は、自分という人間を、自問していた。

答えは、出ないままに。

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