愛ノアイサツ
軽くそう答えると野木くんが笑って言った。

「じゃぁいいじゃないっすか。今日ぐらいみんなで飲みましょうよ。俺も城田さんと飲んだことないし。」

「そうだっけ?」

「そうっすよ。」

少し悲しそうに俺を見る野木くんはまるで子犬みたいでどうにも断れなかった。

「分かった。行くよ。」

「ほんとっすか?やった!じゃ、着替えたら駐車場で集合で。」

そう言って嬉しそうにホールからいなくなってしまった。

まぁ、今の時間じゃ面会の時間も終わってるし、周りのみんなも本番前に少しは気を許した所で打ち解けた話でもしたいのだろう。しかも僕はオケの人間ではないから次のコンサートが終わったらなかなか一緒に弾く機会もない。普段はそんなことどうとも思わないのに、なぜだか最近はそういったことに感傷的になるようになった。別に愛着があるわけじゃないんだけど。

着替えを終えて楽器を肩にかけ駐車場に行くと、そこではすでに十数人の男女が楽しそうに談笑していた。野木くんが僕に気づいて大きく手を振った。

「あ、城田さん!遅いっすよ。」

「ごめん、待たせちゃったかな?」

僕がそう言うと野木くんの隣にいた女の子がドカッと痛そうなストレートを繰り出した。

「この馬鹿!・・・全然です!!みんな今さっき来たんですよ。」

「城田さんが来てくれるなんて感激です!みんな楽しみにしてたんですよ?」

あっという間に僕の周りには5、6人の女の子がやってきて、矢継ぎ早にそう話しかけてくる。僕は曖昧な表情でそれに答えていると野木くんが大きく手をたたきみんなの注目を集めた。

「ほら、女子どもうるさい!予約してた時間過ぎてるんだからさっさと行くぞ!」

痛そうに片方の頬を押さえながら言う野木くんにつれられて、僕たちはホールから少し行ったところにある居酒屋に入っていった。

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