Sin
仕事が終わり、ジャックは夕暮れの中を俯いて歩いていた。
それぞれの考えを正直に吐露しあった職員会議。みんな、理想と現実の狭間でもがいている。
水面に上がろうとどんなに努力しても、足を掴んで海底に引きずり込むような現実。
一体、どうしたら良いのだろう。何がシンにとって、そして子ども達にとって最善なのかが分からない。
アパートの階段で一度足を止め、大きなため息をついた時。
「……焼き林檎?」
甘い香りがどこからか漂ってきた。近所の家で作っているのだろう。
懐かしい甘い香りに、ジャックはふと昔を思い出す。
『お兄ちゃん、半分ちょうだい』
焼き林檎を作ってもらうと必ずジャックの分も欲しがった妹。
幸せそうに食べる笑顔が嬉しくて、つい分けてあげていた。
……もう、帰らない笑顔。
懐かしい甘さが呼び起こした苦い思いを深呼吸して記憶の底に追いやり、ジャックは階段を上がった。