Sin
「それ以上傷つけるな」

母親は涙で汚れた顔をあげる。

「なによ。どうせ最低で極悪な母親だと思ってるんでしょ!?」

否定も肯定もせず、ジャックは血が滲んだ彼女の手の傷口をシャツの裾でそっと拭った。

驚いている母親とは目を合わせず、ポケットからハンカチを取り出して右手の傷を包む。

細く弱々しい、冷たい手。黙って両手で包んだ。

なぜなんだ。一時は我が子を抱きしめていたはずのこの手が、なぜ命を奪おうとするまでに狂ってしまったんだ。

もっと早く、誰かがこの手を温める事は出来なかったのか?

『帰って来なかった』
『シンの事もあたしの事も汚い物呼ばわりして離れて行ったわ』

……一体、誰が狂わせたんだ?

母親も黙ったまま手を見つめていた。怒ったような表情とは反対に温かいジャックの大きな手が“彼”の記憶とだぶる。

再び嗚咽しながら母親は悔しそうに呟いた。


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