Sin


しばらくその場に座り込んでいた母親は、右手に巻かれたグレーのハンカチをぼんやり見つめていた。

「あたしは……悪くない……」

『だからと言って許される訳じゃないだろ』

肌寒い風が吹き抜け、乱れた金髪をなびかせる。

「悪いのはあの人よ……」

あの人さえあたしを裏切らなければ。そう呟いて母親は両手で顔を覆った。

……彼女は、知らない。

この先知ることも無いだろう。

裏切ったと思っている彼――シンの父親が帰って来なかったのは、日雇いの仕事を終えて帰る途中、ルージャの人によるデモに巻き込まれ、警備隊が発砲した銃弾に当たって命を落としたからだという事を。

そして埋葬すらしてもらえなかった彼の手には、きつい仕事に耐えてやっとの思いで手に入れた、彼女へ贈るはずだった指輪がしっかりと握られていた事も。


シンは悪くない。

父親に非があった訳では無い。

母親だけが悪いのでは無い。


幸せになれるはずだった家庭を壊し、親を呻かせ、子どもを苦しめている真犯人は。

一体、誰なのだろうか。


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