Sin
悲鳴をあげる余裕もなかった。痛みに喘ぐ小さな口からもれた声にならない呻き声が、深い闇に吸い込まれていく。

「ルージャの奴には世界から消えてもらう」

知らない男の声。シンの腹にさらに深くナイフを突き刺し、男は低く笑った。

「自分がルージャの人間に生まれた事を恨むんだな」

勢いよく引き抜かれる。小さな悲鳴をあげたシンは左腹を押さえてその場に崩れ落ちた。

ドクン、ドクンと鼓動に合わせて体から流れ出す血。言葉にならない痛み。背後から襲い掛かる恐怖。

……刺され、た。俺、刺されたんだ。

どうし、て……?

『ルージャの人間には消えてもらう』

“死”という言葉がシンの脳裏を過ぎる。

確かに一度はそれを求めた事もある。でも、今は生きていたいんだ。

生きて、いたいのに――


男の足音が遠ざかっているのか、意識が薄くなっているのか。地面に倒れたまま、シンは傷口を押さえていた右手を恐る恐る目の前にかざした。

暗闇の中、不気味に見える赤。生暖かい血の感触。

今度こそ、本当に死ぬかも知れない。

シンははいずりながらアパートへ向かった。人通りの無い道路にずるずると伸びる血痕。

死ぬ、前に。ジャックに、会わなきゃ。伝えたい事、あるんだ……。

シンは痛みと恐怖に呻きながら必死でアパートを目指した。


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