Sin
店を出て数歩、赤を基調にした明るい花の前で立ち止まる。

「お元気でしたか」

「ええ」

母親は目を伏せたまま小声で答えた。温かい風が吹き抜け、ふわりと長い金髪を揺らす。

「よかったです。あれからどうされているか気になっていたので」

笑顔でそう言われ、気まずそうにしながら母親はジャックに頭を下げた。

「ありがとうございました……その、上着」

「ああ。お役に立てましたか」

「お蔭様で、ここまで立ち直れました」

あの時返さなくていいと言った上着のポケットには、一週間分の食費になるくらいの紙幣が入っていた。

「あれからいろいろありましたけど、あの男が捕まって解放されて……今はこの店で働きながら静かに暮らしています」

それはよかったとジャックは相槌をうち、一番確かめたい事を彼女に尋ねた。

「今……幸せですか」

母親は小さく頷き、ぽつりと呟く。

「もし、やり直せるなら……」

それ以上は言わず、彼女は唇を噛んだ。深い後悔が涙になって瞳からこぼれ落ちる。

「あの子は……シンは元気ですか」

ジャックは一瞬迷った。元気だと言った方が良いだろうか。

「元気で……幸せでいますか」

もう一度尋ねた彼女の目は真剣で。

ジャックは一つ息をつき、正直に答える事にした。


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