Sin
風の音かと思って振り返る。

タイプライターを打っていたはずのシンがこちらを見ていた。何か訴えたいのか、口をぱくぱくさせている。

「どうした? シン」

喉の奥から言葉を押し出すように、シンはゆっくり口を動かした。

「あっ、く」

“ジャック”。そう聞こえて、すぐに言葉が出なかった。

シンが話している。話せないはずのシンが、一生懸命声を出そうとしている。

驚いているジャックを手招きするように、シンは引き攣っている手をちょいちょいと動かした。

「あ……ああ、どうした?」

ジャックが近寄ると、シンはぐんと腕を伸ばす。起こして、の合図だ。

「もう少し背中を起こしたいのか?」

ベッドの角度を変えるため、抱き起こそうと屈んだジャックの首にシンは抱き着いた。上手く曲がらない腕で、ぎゅっと。


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