世界の説明書




 僕は岡の上の教会から聞こえる鐘の音で目が覚めた。なんだか落ち着く音。なぜかしらこの音を聞くと胸が痛くなる。優しすぎて胸が痛くなる。幸せだから感じる不安のような、足元の番人が留守になる音だ。世界の影が、世界からが少し離れた。 
 毎朝いつもの所にいる母親に挨拶に行き、その逞しい体に抱きつき、髪の毛を一本貰うのが僕の日曜日の習慣だ。なぜ日曜日かといわれても、僕には解らなかった。きっと鐘の音のせいだろう。何事も後付けが真実を追い越す。それに日曜日は、この教会にたくさん人が集まり、普段町を歩いている時と全く違う顔を皆していた。これもきっと鐘の音のせいだろう。人々は自分達の為に命を捨てた聖人の肉を、約束された安心を、口から胃へ流し込んでいた。
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