世界の説明書
 そしてまた、尽きる事のない自問自答の答えを探しに、利き手とじだんだを踏む。そして、二度の小便と一度の大便、二度の射精、計五度の排出によってようやく目覚める体は、夕闇に照らされた町のなんともいえぬ妖艶な豊潤さに恋焦がれていた。自宅から歩いて一分で着くいつもの公園。薄暗く人がいない、なんとも落ち着く公園。男なのに女の格好したおじさんがいる公園。青いテントが立ち並ぶかわいい公園。二郎はこの公園を愛していたし、自分ほど公園に精通しているものは絶対にいないと言い切れた。たとえ相手がこの公園に住んでいるラスタマン達だろうとだ。警察がお回りに来るの時間も、近所の主婦が買い物にいくルートも、女子校正がオヤジと女子トイレに入る瞬間の視線の朦朧さも、夏でも革ジャンを着ている外国人が、足を引きずって歩く主婦に白い粉の入ったパケを渡す時の視野の広さも、全てを知っていた。この公園に一瞬でもかかわる全ての日常は、二郎の好奇心の餌だった。そして、公衆トイレ内で繰り広げられていた女子校正とオヤジの我慢大会を見送り、もう花を無くした桜の木を見上げた瞬間、二郎の目にとんでもない獲物が飛び込んできた。この世界を覆う闇よりも黒い髪、無駄な成長を全くしていない、鮎のような曲線美の肢体を持つ少女。そして、その少女の右手にに持っている白いステッキ。それは全ての者を探知できるかのように悠然と、しかし、生まれたての子犬のようにたどたどしく動いていた。その女の子の全てが、二郎には気に入った。
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