世界の説明書
 「え、ママ、ママ、どうしたのいきなり。」 名子は急な展開についていけず、ただただ明子の言葉の意味を必死に探っていた。

「大丈夫、僕が一緒にいるから、君のママは困っている人を助けにいくんだよ。君のママはすごいな、僕なんて何も出来なかったのに。」

 名子はそう自分の母を褒める得体の知れない男性から、夏休み明けの学校の魚の水槽のような臭いを感じた。嫌な臭いだった。生命の腐った様な臭い。

「ママ、行かないで、困っている人がいるなら警察に頼みましょう。」

「大丈夫、すぐに戻るから。あなたのような人が困っているんだもの、ママが助けなくっちゃ。」

「お願いします。僕はその人の事も何も、知りませんが、苦しそうでした。誰かが彼を助けてやらなければ。もしかしたら、この公園にいるホームレスかもしれません。でも、目が見えなく仕事が出来なくて、こんな路上生活を強いられ、それで誰からも助けてもらえないなんて、かわいそう過ぎます。この世界はなんでも目に見えるものの判断が正しいのです。汚い格好していればそれだけで罪とされてしまう。たとえ、その人がこの世界中で一番苦労していてもです。あああ、もっと僕に人を救える力があれば。 くそ。」

「大丈夫、あなたのおかげでその人は救われるは、さあまずはその人の元へ向かいましょう。あっちのトイレでいいのよね。」

「はい、よろしくお願いします。彼女は僕がしっかり見ておきます。」

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