世界の説明書
発見


 明子の死からすでに数週間が経っていた。二郎が正人の運転する国産のセダンを見つけたのは、丁度盲学校の脇にあたる狭い一車線の路地でだった。名子の黒い髪は相変わらず凛と空気を緊張させていた。それを見た二郎はほくそ笑んだ。また逢えた。あいつはどこへも行っていなかった。目がうつろで陰険そうな父親と淡白に別れ、名子は学校に入っていった。二郎は正人の顔を見て、この前明子を殺させた男と同じ目をしていることに気付いた。セカイは酒でこじれるし、間違うのだと、二郎は確信していた。自らも飲んでみようとした事もあったが、ただ淀むだけで何も刺激が無いアルコールに反吐がでた。自分を持たない弱者が幻の自分を作り上げ、それを他人に押し付ける為の道具が酒であると、二郎は考えていた。自分は自分があり、自分が全てをコントロールしている事。自分の範囲を知り、自分の想像を具現化できる事。そういった全ての現実を冷静に見える自分こそ賢いと、二郎は信じていた。糞は糞で固まり、嘘だらけの友情を、雑巾のように飾っていろ。セカイは相変わらず二郎を満たしてはくれなかった。しかし、名子が車で学校に送られてきた事に少々戸惑った。まさか、そんなに遠い所から通っていたのか、では家を探し出すのは少々難しいなと、名子の自宅を見つけるという計画の一部に変更が必要だなと、二郎は考えを巡らせた。しかし、以前は母親と歩いていた。バスか。まさか、毎日タクシーはあるまい。ただ、父親が歩きでは会社の時間に間に合わないから、車で通勤途中に娘も送っているのではないか。こういう想像をしている時の二郎は、なんともいえない程の幸福感を感じていた。時間は優雅に過ぎ、コンピュター画面に映った黒髪の少女の肢体(死体)も引きつる程笑顔だった。
 さて、次はどうやってあの子に近づくか。学校からいつも裏門から出てくるが、先生と一緒だったのを目撃していた。なぜ、裏門なんだ、まさか、自分を避ける為か、と二郎は被害妄想を爆発させていた。目が見えないからと、人が優しくしようとしているのに、この俺から離れるのか、俺を避けるのか、一体彼女は何様だ、許せない、罰を与えないと。二郎は怒りに悶えた。油まみれの黒いパーカーに引火した。そして、二郎はまた股間が膨らむ妄想を始めた。
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