世界の説明書
 まず、彼のテントに出向き、飴を渡さずに、弱りきった彼の耳元で「死ね」と百回ほど囁く。最初は驚き戸惑う彼だが、地獄の底から聞こえて来る様な二郎の呪文に、彼は放心したように無表情になった。彼の感情は一度死に、そして不安と絶望の中再び産声を上げる。そして、涙を流しながら彼は二郎に飴玉を請うのだった。彼が泣き叫ぶと二郎は天使の様な微笑を浮かべ彼に飴玉を与えた。これを数日繰り返した。
 そして、次に、二郎は、飴が無くなり泣いている彼の耳元で
 「ごみか、人か、わからなかったから、これ」といって今はなかなか手に入らない旧式の黒いゴミ袋を彼にかぶせた。暗闇が彼を襲う。閉塞感が安心感を与える。吐き気がするほど気持ち悪いのに、二度とここから抜け出せないような安心感が彼を包む。そしてほおっておかれた。最初は飴玉欲しさにこれにも耐えていたが、徐々にこの暗闇が彼の不安を取り除いてくれている事に気付いた。しばらくそのままでいると、ふと二郎に暗闇から引っ張り出される。眩しい光が彼に恐怖を与えた。そして、また飴を与えられる。暗闇と光が交互に彼を襲い、彼は安心と、不安の線引きが出来なくなっていた。何が楽しくて、何が悲しいのか、既に分からなくなっていた。二郎は彼の心を握りつぶし、思考を完全に奪い去った。飴を舐めている時は、彼は生きる喜びを感じ、飴が無いと、彼は死にたがった。そして、飴玉の効力が切れると、彼は二郎に

 「私を殺してください、私を殺してください。」
 と懇願した。しかし、二郎は
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