世界の説明書
ある日の早朝、僕が近所の公園で水を飲んでいると、まだ若いのに白い杖をついた少女が、父親らしき者と無機質な大きな門の中に入っていくのを見かけた。一瞬見過ごしそうになるが、直ぐに、この前公園でずっと泣いていた少女だった事に気がついた。目の見えない少女、昔、自分のせいで一人の女の子を同じ様にしてしまった記憶が、まざまざと蘇ってきた。僕が一人の運命を変えてしまった事。一つの運命が次の運命を変えて、それがどんどん続いていって、最後は運命なんてものは最初から無かったかの様に多重化し、人は結果のみを崇め、行程は言い訳となる。僕は結果に責任を感じ、空白の行程を必死に埋めようと考えた。あの子を守りたい。それが僕の出した答えだった。それから、毎朝と毎夕、彼女の事を、小便臭い青いビニールシートのテントの裏から伺っていた。 時に腐った肉の臭いが彼の鼻を曲げた。うつろな目をした男が何かに取り付かれたようにテントの前で、誰かに謝っていた。そして覚悟を決めたかのように少女の近くに歩いていった。僕は、その彼の後を追った。