いばら姫






―― 映画館の裏手

周辺の景色は、幾つもの倉庫
建物と建物の隙間には
海に燈る、赤い明かりが見えて
フェリーの音が、微かに響く




番号が消えかけたコンテナ

工業油の匂い

焼き印の圧された、運搬用の木箱

壊れたまま放置されたフォークリフト

剥き出しの地面に
太く錆びた鎖がちぎれて落ち
その隙間からは雑草が顔を出し

青黒く粉の吹いた、
酒瓶と一緒に転がっている





「 ―― さて 」


水谷はその景色を背に
ポケットから金属音をたてて、鍵を出した

指先で摘みながら振り
再びそれを、ポケットに戻す




「 …… 岡田、

ロケーションもそれ風だし
君に、『見せ場』を作ってやるよ


…… この先、どうしようかな


―― 閉じ込められた少女は
沢山の男にまわされ、
身も心も激しく傷ついている…


そこへ颯爽とヒーロー登場!

卑怯で陰険な敵、"タカオ"を倒して
この鍵を奪った"主人公・淳"が
優しくヒロインを受け止めるパターン



… 君があの時ホストになっていれば
ここに来る迄に、紆余曲折あって
もっと怒涛の展開があったんだろうけど
梅川が止めたみたいで、…ちょっと残念





―― それとも、少し時間がかかるけど

このまま、君を倒してルウを連れ去り、


…薬漬けにして、
『麻薬逮捕・堕ちた歌姫』
きっと新聞の一面は、一斉に
そんな見出し

過去のライヴ映像と
一緒に流れるニュース、雑誌を
見せるパターンにしてみようか ――



もちろん、"主人公・淳"は
彼女の元に駆けつけて
『何故
あんな奴について行った?!』やら
五月蝿い説教なんかはしないんだ


廃人同様になって
君の顔すら判らない、愛しい彼女を

優しく優しく…

――― 受け止めてくれるよね…? 」










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