いばら姫





道路の両脇には舗道、街路樹

一階は何処も、ローマ洋式の白い柱
二階からは、赤茶の壁
四角い窓には、十字の白い格子が
外観を飾っていて
やたら高級そうな店舗ばかりが目立つ



水谷は口を閉じて、どんどん先を歩き
角を何本か曲がっているうちに

日本食レストランや
居酒屋が目立つ通りへと景色は姿を変えた



そして
ライブハウスや、小さな映画館
小振りなビルが増えて来て

それらに挟まれた道を歩く人達からの声が

「こんばんはー!」や
「何処で食べる?」に変わり

それでも、目立つ観光地界隈で見る
黒髪の集団とは違って
ここに住んでいるらしき雰囲気の
気張っていない服装ばかりだ



…必死に英語で
物事を伝えようと頑張っていた頭の中が
力を抜いたのが自分で判った



「 観光地として人気が出てしまったSOHOが
高級ブティックや企業に乗っ取られて

そこから移動して来たアーティストや
日本からの留学生が、
この辺には沢山住んでる 」



" へえ… "と、
それに対して返事をすると
水谷は、細い眉をあげて、
突然くすくすと笑い出す


「 ―― それにしても
岡田君は変わってるよ

…俺を見付けたら、
もうちょっと驚きながら
リアクション起こして
殴って、居場所吐かせようとするとかさ

せっかくマンハッタンくんだりまで
来てるんだから
監督として 見せ場、作らないと 」



「 … "恋愛物"だろ これ 」


そう言うと
水谷は再びゲラゲラ笑いだし
"そういやそうだったねえ"と片眉をあげる






明かりの着いていない
だいぶ前に、日本でも公開された
古い映画のリメイク版

その色褪せたポスターが貼られ
時が止まったままになっている映画館

小さな建物の横道へと入り
非常階段の下の、裏口に回った





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