大人になれないファーストラバー
瞬きをする度、咲之助の顔が近づいてくる。
このまま行ったら唇が重なり合うような。
そんなふうに首を傾けながら、ゆっくりゆっくりと香ってくる咲之助の香り。
こう言う時はどうすればいいの?
疑問を感じたらすぐに咲之助に聞いていたけど、今はとてもそういう雰囲気じゃなかった。
「あ…」
微かに漏れた吐息は声となり、きっと咲之助の耳にも届いたのだろう。
刹那、咲之助の唇がほんの少しだけ開いて。
「ごめん」と、ほとんど声になっていないその言葉は、空気の振動として伝わってきた。
離れていく咲之助。
その時にはもう絡みついてた髪の毛はするりとほどけていた。
「サクっ」
"ごめんなんて言わないで"とでも言いたかったのか、あたしは咄嗟に咲之助の服を掴む。
その瞬間、絶妙なバランスで保たれていたこの空間を、一瞬で切り裂くような機械音が部屋中に鳴り響いた。