大人になれないファーストラバー
機会音の正体は咲之助のケータイだった。
「…もしもし」
電話に出るときの咲之助の声、寂しそうに聞こえたのは気のせいだろうか。
気のせいであって欲しいと思う反面、何もなかったみたいな様子では逆にこっちが寂しくなる。
この気持ち、口にしたいけれど矛盾しててきっとうまく伝えられない。
咲之助の服の端を掴んだ手にぎゅっと力を込めて、そんなもどかしさを感じていた。
「蕾、観月行けるって」
ケータイに耳を当てたままふいに振り返った咲之助。
咲之助の表情の普通さにびっくりしたこともあって、何のことだかすぐには思いつけない。
「…あ、観月」
そういえば自分が言い出したんだということを思い出し、少し声のトーンを上げた。
「部屋の外にいるとき友達に連絡頼んどいたんだ」と、もうすっかりいつも通りに言う咲之助。
ケータイを閉じてズボンのポケットにしまうと。
「じゃぁ出かけるか」
と、咲之助は少し幼い頃に戻ったような顔で笑ってみせた。
それを見て、いつでも咲之助の速度に追い付けない自分を孤独に感じたことは、今は取りあえず胸に閉まっておくことにする。
あたしは「うん」としか答えられず、掴んでいた咲之助の服を静かに離した。