大人になれないファーストラバー
電話越しに、カサカサという音が聞こえてくるものの。
いっこうに続きを話そうとしない。
カサカサカサカサ。
あ、これは頭掻いてるな。
落ち着かない時にあいつがよくやる癖。
カサカサカサカサ。
「…あの?」
そろそろ沈黙にも飽きて、口を開くと。
「あ、ごめん。」
カサカサが止んで寝起きみたいな声が鼓膜を震わす。
「いきなりなんだけど、明日日本を発つことにした。」
「え?」と発した声は掠れてて、たぶん耳の悪いあいつには聞こえてない。
"日本を発つ"と聞いた直後は鼓動が早くなってうるさいほどだったが、全部聞き終わると心臓の音はまったく聞こえなくなった。
「そんな、いきなり…」
いつもの命令口調も今は出ない。
"観月"は強いはずなのに、声は頼りなさ過ぎて情けない。
「でさ、観月も一緒に…」
「え、え?」
話しが急すぎて付いて行けない。
明日日本を発つから一緒に来いって…?
「いきなりだし、困るかもしれないけど。 もしついて来てくれるなら明日朝9時に駅に来て。」
そして最後に「待ってる」と言われ、電話は切れた。