大人になれないファーストラバー
上の方の髪の毛を束にして蕾に持ってもらっておいて、下の髪の毛から順に液を付けた。
「下の方はこれでいいかな」
蕾の髪は思った以上に長くて、液が足りるのか心配になってきた。
「んじゃ次上ね」って言って、蕾の手から髪の束を受け取ろうとした時。
「…観月、ごめん。やっぱりやめたい」
と、蕾。
ふいに鏡に映る蕾の目を見ると、蕾のほうもあたしを見ていた。
「どうしたの、急に」
聞くと、蕾は今度は鏡越しではなくてこちらを振り返って目を合わせてくる。
「やっぱりこのままがいい。 アイロンかけてくれる人がいなくてもいいから、このままがいいの。」
お風呂場のぼんやりと優しいオレンジの光を宿した蕾の瞳は、かすかにうるみ始めていた。
なかなか動じられないあたしから目を逸らすと、蕾はシャワーの蛇口を捻った。
瞬間、蕾に冷たい水が降り注いだ。
勢いがいいシャワーはあたしにまで水を飛び散らす。
「蕾っ」
目に水が入り込んで、目の前がよく見えない。
「蕾っ」
もう一度呼んで、手探りでシャワーの蛇口を探し当て、必死でそれを捻った。