大人になれないファーストラバー
曇りガラスの向こうにお母さんの姿が見えなくなってから、抱き寄せていた蕾を体から離した。
「大丈夫?」
顔を覗くと、まだしゃくり上げている蕾。
「ごめん、観月、ごめん…っ」
「なんで謝んの?」
「せっかくやってくれたのに、ごめんねっ」
容器の中の液は水と混じり合って薄まっていて。コームにつけた液はすっかり流れ落ちていた。
「気にしないの」
「でも」
「あたしは大丈夫だからさ。 それより早く髪の毛洗い流そ。 ちゃんと流さないとストレートになっちゃうぞー」
笑っておどけて見ると、瞬きを数回して蕾も笑った。今度は分からないぐらい微かなものではなくて、口の端を持ち上げてはっきりと笑みを浮かべた。
その頬を最後の涙が伝いきる前にそっと拭き取って。瞼に唇が触れるか触れないかぐらいのキスをした。
「観月…」
「今のは強くなれるおまじない。 それと、これからはちゃんとアヤって呼びなさい。」
蕾の、水に濡れてぺったんこになった頭に手をのせて、大人ぶった口調で穏やかに言うと。
「うん。了解。」
毛先から水を滴らせつつ、蕾は敬礼しながら無表情に戻った顔でそう返事した。