大人になれないファーストラバー
ハヤマの下から完全に抜け出し走りだそうとした。
が、ふとハヤマの足にしがみついているタケちゃんが頭をよぎり、後ろを振り返る。
「先生…」
「早く行けっ ここはワシに任せろっ」
タケちゃんは意外にも並びのいい歯を見せて頼もしく笑い、太い声で言い放った。
それに対して俺は無言で頷き、タケちゃんに背を向けて走り出す。
拳を握りしめ、タケちゃんの無事を祈りながら。
少し離たところまで走っても、「待てぇぇえ」と言ううめき声は背後に張り付いてるように聞こえ続け。
あまりにも途絶えないから聞こえる度に鳥肌が立った。
ああ、できればもうハヤマとは関わりたくない。
そう思いながら、日が差し込まない一階の廊下にたどり着く。
一階まで来るとようやく声は聞こえなくなり。
念のため、足を止めて後ろを振り返ってハヤマがいないことを確認した。
やっとあいつから解放された気がして、肩の力が抜けた。
深く吸って吐いて息を整え、今度は走らずにゆっくりと歩いて廊下を進んだ。