ストレイ・ハーツ〜夢みる王子のねがいごと〜
――やっぱり眠れなくて、散歩でもしているのかな。
ここは偉大な魔法使い・オズが治める国。
危険なことは無いと思うけれど…
一抹の心配を抱えながらも、身体に触れる柔らかなベッドの誘惑には抗えず瞼がとろんと落ちてくる。
スリッパを脱いで濡れた髪もそこそこに、うららもベッドに潜り込んだ。
──温かい。
ぼんやりと思う意識さえ、頭の片隅に追いやられる。
うとうとと、あっという間に夢の中へと引き込まれるうららの意識を再び連れ戻したのは、自分の手に触れた、自分以外の温もり。
最初はまったく気にも留めなかったそれが自分の名前を呼んだとき。
その違和感に漸くうららは瞼を押し上げた。
そこに、すぐ目の前に居たのは。
「リオせんぱ…!!?」
「しーーーっ! うーちゃん、みんな起きちゃうよ」
思わず声を上げそうになったうららの口に、慌ててリオの大きな手が被さる。
その手を押さえながら、うららは瞬きをぱちぱちと繰り返す。
何度見ても確認しても、目の前にはリオがいる。
同じベッドの中に。
驚きを隠せないうららにリオはくすりと笑いながら、口を開いた。
「やっぱり、眠れなくて。みーんなあっという間に寝ちゃってさー、うーちゃんを待ってたんだよ? 眠くなったらちゃんと自分のベッドに戻るから、少しだけここに居てもいい?」
ひとり用のベッドの中、すぐ目の前でリオがささやく。
一番窓際のこのベッドには、大きな窓から月の光が柔らかく降り注いでいた。
みんなの寝息しか聞こえない静かな夜。
月明かりだけが内緒の夜をそっと包み込んだ。