最愛の人

秦さんの話によると



あたしが倒れたのは喘息の発作と、風邪が軽い肺炎になったことが原因らしい。

あたしは生まれつき軽い喘息を持ってる。
酷くはないから普通に生活をしていて支障はない。でもたまに風邪をこじらせたり、体が弱っているときに軽い発作が起こることがある。


今回は、タバコの煙が発作の原因。
バイト先を出た所で数人の人がタバコを吸ってたらしく、その煙を吸い込んだせいで起こった発作。
いつもは平気だけど、風邪で体調がよくなかったせいで発作が起こったみたい。



秦さんはいつも通り玄関先で待っててくれたんだって。
でも体調が悪かったあたしを心配してバイト先まで迎えに来たらしくあたしが仕事を終えて出てくるのを待っててくれたみたい。


出てきたのはいいけど、いきなり目の前で倒れるからビックリしたって。
呼びかけても返事がないし、呼吸も辛そうだから病院に連れてきてくれたみたい。


「今日様子をみてなんともなかったら明日には退院だ。」



「ごめんなさい…迷惑かけて」



「迷惑じゃねー。俺は初美の保護者…父親代わりになるんだからこれぐらいどーってことない。」

って口端を上げて意地悪く笑う秦さんの顔を見て涙が溢れてきた。


「ここは泣くところじゃないだろ?初美ちゃんは泣き虫だな」



「あたし…あんな酷い事言ったのに…」



「一人で頑張って一杯一杯だったんだろ?もっと早くに気付いてやれなくて悪かった。ちゃんと見てたつもりだったんだが…まだまだだな」


言葉が出てこないから首を横に振ることしかできなかった。

この人は信用していいかもしれない。
ううん、信用できると思う。
あたしのことを真剣に考えてくれてる。心配してくれてる。ちゃんと見ててくれてる。
“信用できる”じゃなくて“信用したい”


「秦さん…あたしを引き取りたいって話まだ有効ですか?」
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