月と太陽の事件簿8/微熱混じりの推理
「筆跡だけで本人とは決めつけられないだろう」

「筆跡だけじゃないわ」

あたしは遺書と万年筆についていた指紋のことを口にした。

「遺書と万年筆からは西本以外の指紋は見つからなかったのよ」

「つまり本人が書いたとしか思えないわけか」

「そういうこと」

たとえ自殺するような性分でなくても、別荘内に不審な点があっても、この事実だけは今のところ覆らない。

つまりこのままだと西本が自殺したということになる。

しかしそれを認めたい人間は司法側にはいない。

「遺書は本物。しかし殺された場合か…」

達郎はしばし考え込んだ後

「こういう風には考えられないか」

右人指し指を立てた。

「訓練によって西本の筆跡を真似ることができた人間がいたとする」

ふむふむ。

「そいつは手袋をした手で西本の万年筆を使って遺書を書く」

その後、西本を毒殺。

「死んだ西本の手を取り遺書と万年筆にペタペタと指紋をつける」

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