月と太陽の事件簿8/微熱混じりの推理
「その偽装は不可能よ」

あたしは首を振った。

「なぜだ?」

「西本は死の間際に嘔吐したのよ」

あたしは手で口を押さえた。

「まずこんな風になってから…」

次に前かがみになった。

「その後に後ろにのけ反って事切れたと思われるの」

「つまり手は嘔吐物で汚れていたと」

「体の前面もね」

遺体の状況を思い出したら胃のあたりがムカムカしてきた。

床やテーブル、ソファが汚れてなかったのは奇跡だ。

「奇跡ね」

達郎は一瞬、黙り込んでから

「その手で遺書を触ったら目立つわな」

「遺書自体はまっさらで汚れひとつなかったわ」

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