危険な誘惑にくちづけを
 佐倉君は、嘲(わら)う。

「そいつが、ホストを経験した挙げ句。
 パティシエとしても順調に滑り出しているって……?
 春陽ちゃんの中に、オイラの出る幕なんてイッコもねぇじゃん。
 絶望的過ぎて、笑えるよ」

「……佐倉君」

「普通にガンバっても、ダメだってコトぐらい判ってる。
 だからって……声や、写真で縛るコトがイイコトだなんて思ってない。
 でも、それじゃ……どうやって、春陽ちゃんに深く近寄ればいいんだよ!?」

 言って、佐倉君は苦しそうに、目を伏せた。

「彼氏が居るから、手を出すな?
 好きなヤツのコトを考えたら、そのコを惑わすコトなくひっそりと身を引け?
 ふんっ!
 ……そんなコトを言うヤツは、偽善者だ。
 でなければ。
 相手のコトを、本当の本気で愛してねぇヤツの言い訳でしかないよ!」

 そのココロはきっともっと燃えているに違いない、と思う。

 恋焦がれて、焼けつきそうなほど、熱い、佐倉君の口調に。

 思わずくらり、とわたし自身も流されそうになる。

「佐倉く……」

「好き……いや。
 愛してるよ、春陽ちゃん。
 本当の、本気で、ココロから」

 
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