危険な誘惑にくちづけを
 そう、呻くようにささやいて、佐倉君はわたしの瞳を覗きこむ。

「……どうか、春陽ちゃん……
 オイラを愛して?
 ……受け入れて?」

 ……佐倉君のココロは、本当にアツくて、まっすぐで。

 わたしのココロを、つきん、と刺した。

 たとえば、もし。

 紫音に会う前に、佐倉君に出会えることができたなら。

 彼の強く、切ないココロに応えるコトもできたかも、しれなかった。

 けれども、わたしには。

 他に、好きな人がいた。

 たとえ、遠恋でカラダが国境を超えていても。

 ココロだけは、ずっと寄り添っていたい、ヒトがいた。

「ごめんね……佐倉君」

 やっぱり、どうしても。

 あなたを愛することは、できないから……

 謝るわたしに、佐倉君は子供のようにクビを振った。

「……ダメだ。
 オイラ、春陽ちゃんの全てが、ほしいよ。
 でも。
 どうしても。
 春陽ちゃんのココロが、手に入れられないのなら……」

 言って、佐倉君は射抜くように、わたしを見た。

「……カラダだけでも、奪ってやるから」
 
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